ベンチプレスの手幅で効果は変わる?大胸筋・三頭筋・肩への影響を科学的に解説

ベンチプレスの手幅で効果は変わる?大胸筋・三頭筋・肩への影響を科学的に解説

「ベンチプレスの手幅って、結局どのくらいがベストなの?」

トレーニングに取り組む多くの方が、一度は抱く疑問ではないでしょうか。ワイドグリップ、ナローグリップ、標準グリップ——手幅を数センチ変えるだけで、鍛えられる筋肉の割合が変わり、扱える重量が変わり、そして肩や肘への負担まで大きく変化します。

ベンチプレスは「胸を鍛える種目」というイメージが強いですが、実際には手幅の設定によって大胸筋・上腕三頭筋・三角筋への刺激配分をコントロールできる、非常に奥深い種目です。さらに、フォームを誤ると肩関節を痛める原因にもなり得ます。

本記事では、最新のバイオメカニクス研究(Larsenら, 2021をはじめとする複数の論文)をもとに、手幅がもたらす7つの変化を項目ごとに整理し、目的別・状態別の最適な手幅の選び方まで踏み込んで解説します。
※モーメントとは 物体を回転させる能力のこと。力の大きさだけでなく、力の加え方(支点からの距離や角度)によってモーメントの大きさは変化します。ベンチプレスにおける関節への負荷を理解するうえで重要なキーワードです。

 

 

手幅を変えると何が変わるのか——7項目の全体像

手幅(ワイドグリップ/ナローグリップ)の変更によって影響を受ける主な項目は、次の7つです。

ここからは、それぞれの項目について科学的な根拠とともに詳しく確認していきましょう。

 

1. 大胸筋の筋活動——ワイドグリップで増加する

多くの方が直感的にイメージする通り、ワイドグリップは大胸筋の筋活動を高める傾向にあります。

その理由は、手幅を広げることで肩関節の「水平内転モーメント」が大きくなるためです。ベンチプレスでバーを下ろす局面では、大胸筋がエキセントリック収縮(伸ばされながら力を発揮する収縮)を起こしながらブレーキをかけています。手幅が広いほど、この大胸筋を伸張させる力(水平内転モーメント)が増大し、結果として大胸筋への機械的な負荷が高まるのです。[1][2]

胸の厚みや広がりを重点的に狙いたい場合、ワイドグリップを取り入れる意義は科学的にも裏付けられていると言えます。ただし後述の通り、極端なワイドは肩へのリスクも高めるため、バランスが重要です。

 

2. 上腕三頭筋の筋活動——ナローグリップで増加する

一方、ナローグリップにすると上腕三頭筋の筋活動が高まります。特に外側頭と長頭への刺激が増加することが報告されています。[2]

メカニズムはこうです。手幅を狭くすると肩関節の外転角度が減り、バーが胸のより下部寄りに降りるようになります。同時に肘関節の屈曲角度が大きくなるため、バーを押し上げる際に肘を伸展(伸ばす)するためのより大きな力が必要になります。この肘伸展を担う主役こそが上腕三頭筋であり、ナローグリップでは三頭筋が強く動員されるというわけです。

腕を太くしたい、ロックアウト(挙上の最終局面)の押し切る力を強化したいという目的があるなら、ナローグリップは有効な選択肢になります。

 

3. 三角筋の筋活動——ナローグリップで前部線維に効く

三角筋の筋活動も、ナローグリップで増加します。 仕組みは上腕三頭筋のケースと共通していますが、こちらは肩関節の屈曲モーメントの増加により、特に三角筋前部線維への負荷が高まる点が特徴です。[2]

ナローグリップではバーが下がる位置が変わり、肩関節の屈曲方向への動きが大きくなります。これによって肩の前側の筋肉が押し上げに強く関与するようになります。三角筋前部は大胸筋上部とともに「押す動作」の重要な補助筋であり、ナローグリップはこれらをまとめて刺激できるフォームだと理解しておくとよいでしょう。

 

4. 肩関節への負荷——ワイドはリスク、ナローは軽減

手幅は「効かせる部位」だけでなく「ケガのリスク」にも直結します。ここは特に丁寧に押さえておきたいポイントです。

ワイドグリップの場合

ワイドグリップでは肩関節の外転角度と水平外転モーメントが増加しやすくなります。これに伴い、肩関節の前方組織——関節包、靱帯、そして回旋筋腱板(ローテーターカフ)——へのストレスが増大します。[2]

さらに、この姿勢では上腕骨頭が前上方へ変位しやすくなるため、肩峰下インピンジメント(腱板が骨に挟み込まれる状態)のリスクも上昇します。肩に不安のある方が安易に極端なワイドグリップを選ぶと、痛みや炎症を招きかねません。

ナローグリップの場合

対照的に、ナローグリップは肩の外転角度が小さくなるため、肩関節および肩峰下へのストレスが軽減されます。[1][2]

その一方で、肩関節の可動域(特に屈曲)は増加するため、前述の通り三角筋の筋活動は高まります。[1][2] つまりナローグリップは「肩への負担を抑えながら、肩や腕の筋群には刺激を入れられる」という特性を持っているのです。

 

5. 肘関節への負荷——ナローグリップで増加する

肩とは逆に、肘関節への負荷はナローグリップで大きくなります。

ナローグリップでは肘関節の屈曲角度と伸展トルク(肘を伸ばす方向に必要な回転力)が増えるため、上腕三頭筋が強く働きます。その分、肘関節にはワイドグリップよりも大きな負荷が加わることになります。[3]

三頭筋を追い込める利点の裏返しとして、肘に違和感や痛みがある場合には注意が必要です。手幅の選択は「肩と肘、どちらに余力があるか」というトレードオフの視点で考えると判断しやすくなります。

 

6. バーの下げ幅(可動域)——ナローグリップで深くなる

ナローグリップでは、バーをより深く下ろすことができます。 研究によれば、肩関節と肘関節の可動域はワイドグリップと比べて約10〜20%増加するとされています。[3]

下げ幅が大きいということは、筋肉に対する伸張刺激(ストレッチ)も増える傾向にあるということです。近年のトレーニング科学では、筋肉が引き伸ばされた状態での負荷(ストレッチ下での刺激)が筋肥大に有利に働く可能性が注目されています。

ここに実践的なヒントがあります。何らかの理由でベンチプレスの挙上重量を上げられない時期——たとえば疲労が溜まっている、関節に不安がある、減量中で力が出にくいといった局面でも、ナローグリップを選択することで、重量に頼らずターゲット筋群への機械的刺激を増やせる可能性があるのです。重量が停滞したときの打開策として、手幅の変更は覚えておく価値があります。

 

7. 挙上重量——ワイドグリップの方が高重量を扱える

純粋に「重い重量を挙げる」という観点では、ワイドグリップに軍配が上がります。

理由は主に2つです。第一に、下げ幅が小さくなることで肩関節・肘関節の屈曲モーメントが減少し、力学的に有利になること。第二に、上肢と体幹をつなぎ大きな筋力を発揮できる大胸筋が、ワイドグリップでは力を出しやすいポジションになることです。[3]

特に6RM(6回で限界となる重量)程度までの高強度領域では、ワイドグリップはナローグリップと比べてより高重量を扱える傾向が確認されています。[1] 最大筋力やパワーの向上を狙うトレーニングでは、この特性が大きな意味を持ちます。

最新のバイオメカニクス研究(Larsenら, 2021)
娯楽レベルでトレーニングを行う男性を対象に、ワイド・ミディアム・ナローの3種の手幅で1RMベンチプレス中のスティッキングリージョン(挙上が最も停滞する局面)を分析。手幅によって関節の運動学、水平方向の力学、筋活動が明確に変化することを示しました。[3]

 

 

目的別・状態別——ベンチプレスの手幅の選び方

ここまでの科学的知見を踏まえ、目的やコンディションに応じた手幅・フォームの指針を整理します。

筋肥大を狙うなら

基本のグリップは標準(肩幅の約1.5〜2倍)に設定するのがおすすめです。そのうえで、大胸筋を重点的に狙いたいときはワイドグリップを適度に取り入れます。ただし肩への過負荷を避けるため、ワイド一辺倒にせずナローグリップも組み合わせることで、肩を守りながら胸・腕・肩へバランスよく刺激を入れられます。

筋力・パワーを狙うなら

高重量を扱える標準〜ワイドグリップが適しています。最大筋力の向上やスポーツパフォーマンスにつながる爆発的なパワー発揮を目的とする場合、力学的に有利なワイド寄りの設定が力を発揮します。

上腕三頭筋を重点的に鍛えるなら

ナローグリップを選び、肘を体側寄りに保つことを意識します。この姿勢は三頭筋と三角筋前部への刺激を高め、押す力の底上げに効果的です。

肩に痛みや不安がある場合

まず、極端なワイドグリップは避けることが原則です。目安として、ボトムポジション(バーを下ろしきった位置)で前腕が床に対してほぼ垂直になる手幅を基準にしましょう。この手幅は関節への剪断力が小さく、力の伝達効率も良好です。

加えて、肩甲骨の下制(下げる)・内転(寄せる)を維持することで、肩関節前面へのストレスを抑えられます。「胸を張り、肩甲骨を寄せて下げる」という基本フォームは、肩を守るうえで欠かせないポイントです。

 

 

まとめ——手幅は「目的とコンディション」で使い分ける

ベンチプレスの手幅に、唯一絶対の正解はありません。大切なのは、それぞれの手幅が持つ特性を理解し、自分の目的とその日のコンディションに合わせて使い分けることです。

改めて要点を整理すると——

・ワイドグリップ:大胸筋への刺激と挙上重量に優れるが、肩の前方組織への負担が増える
・ナローグリップ:三頭筋・三角筋前部に効き、可動域が広がり肩への負担は軽いが、肘への負荷は増える
・標準グリップ:バランスに優れ、多くの人にとってのベースとなる

重量が停滞したらナローグリップで可動域と伸張刺激を稼ぐ、パワーを高めたい日はワイド寄りにする、肩に違和感があればフォームと手幅を見直す——こうした引き出しを持っておくことで、トレーニングの質は大きく変わります。

手幅を「なんとなく」で決めていた方は、ぜひ一度、自分の目的に立ち返って設定を見直してみてください。数センチの調整が、あなたのベンチプレスを次のステージへ導いてくれるはずです。

正しいフォームや自分に合った手幅の見極めに不安がある場合は、専門的な知識を持つトレーナーのもとで一度チェックを受けることをおすすめします。ケガを防ぎ、狙った成果を最短で得るための近道になります。

Dr.トレーニングでは、お客様一人ひとりの体質やトレーニング内容に合わせた食事・栄養指導も行っています。クレアチンの摂取量や摂り方について迷ったときは、ぜひ無料カウンセリング、体験トレーニングをご利用ください。

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【著者情報】
東田 雄輔
– 資格
・NSCA-CPT(全米エクササイズ&コンディショニング協会認定パーソナルトレーナー)
・JATI-ATI(日本トレーニング指導者協会認定トレーニング指導者)
・NASM-PES(全米スポーツ医学協会認定パフォーマンス向上スペシャリスト)
・NASM-GFS (全米スポーツ医学アカデミー認定ゴルフフィットネススペシャリスト)
・IASTM SMART TOOLs
・PRI Postural Respiration 修了
・PRI Pelvis Restoration 修了
・PHI pilates act

https://drtraining.jp/cast/higashida/

 

参考文献

[1] Saeterbakken, Atle Hole, et al. “The effect of grip width on muscle strength and electromyographic activity in bench press among novice- and resistance-trained men.” International Journal of Environmental Research and Public Health 18.12 (2021): 6444.

[2] Saeterbakken, Atle Hole, et al. “The effects of bench press variations in competitive athletes on muscle activity and performance.” Journal of Human Kinetics 57 (2017): 61.

[3] Larsen, Stian, Olav Gomo, and Roland van den Tillaar. “A biomechanical analysis of wide, medium, and narrow grip width effects on kinematics, horizontal kinetics, and muscle activity on the sticking region in recreationally trained males during 1-RM bench pressing.” Frontiers in Sports and Active Living 2 (2021): 637066.

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