2026.06.05
監修者: 代表取締役 山口 元紀
ベントオーバーロウイングの握り方は順手・逆手で違う?研究で見る筋活動の差と効かせ方
目次
「ベントオーバーロウイングは、順手と逆手で効く場所が変わる?」
背中を鍛える定番種目であるベントオーバーロウイング(ベントオーバーロウ)では、バーの握り方ひとつをとっても「順手と逆手でどちらが背中に効くのか」という疑問をよく耳にします。SNSやトレーニング系の解説でも意見が分かれやすく、現場でお客様から質問されることも少なくありません。
この記事では、ベントオーバーロウイングにおける握り方(順手=プロネイテッドグリップ/逆手=スピネイテッドグリップ)の違いについて、筋電図(EMG)を用いた研究をもとに整理しました。あわせて、上体の前傾角度が筋活動へ与える影響や、現場で本当に重視すべきポイント、フォームが安定しない初心者への代替種目までを、トレーナー視点で解説します。
なお、ベントオーバーロウイングそのものの基本的なフォームや効果については別記事で詳しく扱っているため、ここでは「握り方と角度で筋活動がどう変わるか」という一歩踏み込んだテーマに絞って掘り下げていきます。
結論:握り方の差より「引き方・角度・肩甲骨」の影響が大きい
最初に結論からお伝えします。
順手と逆手では、たしかに一部の筋肉で筋活動量に差が生じることが研究で示されています。しかし、その差は決して大きなものばかりではなく、被験者によってバラつきも見られます。
実際の現場で背中の効きを左右するのは、握り方そのものよりも、
・肘をどこへ向かって引くか
・上体(体幹)の前傾角度
・肩甲骨の動かし方(内転・下制)
・バーの軌道と可動域の調整
といった要素の影響のほうが大きい可能性が高いと考えられます。
つまり、「順手か逆手か」だけにこだわるよりも、フォーム全体を整えるほうが背中への刺激は安定しやすい、というのが本記事の立場です。
これは研究結果だけでなく、Dr.トレーニングの現場で日々お客様を指導するなかでも実感している点です。
同じ「逆手」で同じ重量を扱っていても、肘の向きや肩甲骨の使い方が変わるだけで、効いている部位の感覚がガラッと変わるお客様を数多く見てきました。
以下では、その根拠となる研究を一つずつ見ていきます。

ベントオーバーロウイングで働く主な筋肉
握り方の話に入る前に、ベントオーバーロウイングで主に働く筋肉を簡単に確認しておきましょう。
ベントオーバーロウイングは「引く」動作によって背中側の複数の筋肉を同時に動員します。代表的なものとして、背中の広い面積を占める広背筋、肩甲骨を寄せる僧帽筋(中部・下部)、脇の下から背中につながる大円筋、そして肘を曲げる動作に関わる上腕二頭筋などが挙げられます。
握り方や角度を変えると、これらの筋肉のうち「どこにより強い刺激が入りやすいか」のバランスが微妙に変化します。
順手と逆手で筋活動はどう変わる? ベンチプルを用いた研究[1]
まず参考になるのが、ベンチプル(chest-supported bent-over row:胸をベンチで支えた状態で行うロウイング)を用いて、順手と逆手の筋活動を比較した研究です[1]。
検証条件
- 1RM(最大挙上重量)の80%という高負荷で、ベンチプルを3回×1セット実施
- 順手(PG:Pronated Grip)と逆手(SG:Supinated Grip)の2条件を比較
- 測定した筋:広背筋、上腕二頭筋、僧帽筋中部、僧帽筋下部、大円筋
胸をベンチに預けることで上体の反動や姿勢のブレを抑え、純粋に握り方の違いを比較しやすくした設定です。
結果
- 広背筋の筋活動量は、逆手のほうが高い値を示した
- 僧帽筋中部の筋活動量は、順手のほうが高い値を示した
- 大円筋・僧帽筋下部・上腕二頭筋については、順手と逆手で有意な差は認められなかった
- 順手と逆手による筋活動量の差を被験者間で比べると、広背筋と僧帽筋中部では個人差が小さく、大円筋・僧帽筋下部・上腕二頭筋では個人差が大きかった
ここから読み取れるのは、「逆手は広背筋、順手は僧帽筋中部にやや入りやすい傾向がある」という点です。
ただし、その傾向がはっきり出る筋(広背筋・僧帽筋中部)と、人によって反応がまちまちな筋(大円筋・僧帽筋下部・上腕二頭筋)があることも見逃せません。つまり「逆手にすれば誰でも必ず広背筋に効く」と言い切れるわけではなく、あくまで全体的な傾向として捉えるのが妥当です。
懸垂・ラットプルダウンでの関連知見[2][3][4]
握り方と筋活動の関係は、同じ「引く」動作であるプルアップ(懸垂)やラットプルダウン(バーを胸へ引く動作)でも研究されています。
これらの種目では、おおむね次のような傾向が報告されています。
順手(プロネイテッド)の傾向
- 僧帽筋下部や広背筋寄りに刺激が入りやすい可能性
- 肩甲骨の運動(寄せる・下げる動き)が強調されやすい
逆手(スピネイテッド)の傾向
- 上腕二頭筋の筋活動が増えやすい
- 肘を曲げる動作(肘屈曲)への依存が増えやすい
注目したいのは、どちらの握り方でも広背筋の筋活動そのものには大きな差が出にくい一方で、どの種目でもバーを引き上げる局面(求心性局面=コンセントリック・フェーズ)では上腕二頭筋の活動が高まる、という点です。逆手にすると腕(上腕二頭筋)が動作を主導しやすくなるため、「背中に効かせているつもりが腕で引いてしまう」状況が起こりやすくなります。
実際、私たちが指導の現場で最も多く目にするつまずきがこの「腕で引いてしまう」です。
特に逆手は手のひらが上を向くぶん肘を曲げやすく、本人は背中を使っているつもりでも上腕二頭筋ばかりに疲労が溜まってしまう、というケースが少なくありません。背中を狙いたい場合は、握り方に頼るよりも、肘から先をフックのように使い、腕の力でバーを引かない意識を持つことが重要になります。
Dr.トレーニングではこの感覚を、軽い重量での反復や徒手でのサポートを通じて、お客様一人ひとりに合わせて指導しています。

上体の前傾角度が筋活動に与える影響[5]
握り方と並んで、ベントオーバーロウイングのフォームを大きく左右するのが「上体をどれくらい前傾させるか」です。この前傾角度に着目した研究も紹介します[5]。
検証条件
- ベントオーバーロウイングの上体前傾角度を65°と40°の2条件で実施
- 上肢の動的ストレッチングを行ったうえで、各角度を20kg×5回、さらに40%・50%・60%・70%1RMで2回ずつ実施
- グリップは順手のみ
- 広背筋・僧帽筋下部・僧帽筋中部・上腕二頭筋の4部位の筋活動量を測定
ここでの65°・40°は、地面に対しておおよそどれくらい深く上体を倒すかの目安です。角度が深い(65°に近い)ほど、上体は床と平行に近づいていきます。
結果
- 広背筋と僧帽筋下部の筋活動量は、65°のほうが40°よりも高い値を示した
- ただし筋活動量の差を被験者間で比べると、すべての被験者が65°で筋活動量が増えたわけではなかった
総じて「上体を深く倒した(前傾を強めた)ほうが広背筋・僧帽筋下部に入りやすい傾向」が示唆されますが、これも個人差が存在します。前傾を深めるほど腰部(脊柱起立筋)への負担も増えるため、角度を稼ぐことだけを目的に無理な姿勢をとると、背中への刺激より先に腰を痛めるリスクが高まります。
現場で前傾角度を指導していて感じるのは、「深く倒したほうが効く」と聞いて無理に前傾を強め、背中が丸まってしまう方が一定数いる、ということです。股関節からしっかり折りたためているか、骨盤が後傾していないかで、同じ65°でも背中への入り方と腰への負担はまったく変わります。狙いたい筋肉と、安全に保てる姿勢のバランスを見極めることが大切です。
現場で重視すべきは「フォーム全体」
ここまで握り方(順手・逆手)と上体の前傾角度について研究を整理してきました。
たしかに、握り方や角度によって筋活動量に一定の傾向は見られます。しかし、いずれの研究でも被験者間のバラつきが認められており、「この握り方・この角度なら誰でも必ずこう効く」と断言できるものではありません。
むしろ実際の現場では、冒頭で触れた次の要素のほうが筋活動への影響が大きい可能性が高いと考えられます。
- 肘をどこへ引くか:脇を締めて肘を腰側へ引くか、外側へ張り出すかで、広背筋寄りか僧帽筋寄りかが変わりやすい
- 上体の角度:前傾を深めるほど背中上部〜広背筋に入りやすい一方、腰への負担も増える
- 肩甲骨の動かし方:引く局面で肩甲骨をしっかり内転・下制できているか
- バーの軌道と可動域:みぞおち〜下腹のどこへ、どの軌道で引き切るか
握り方は「微調整のひとつ」と捉え、まずはこれらの土台を整えるほうが、結果的に狙った部位へ効かせやすくなります。
フォームが安定しない初心者への代替種目
もう一つ現場で重要なのが、お客様のフィットネスレベルによっては、そもそもベントオーバーロウイングで適切なフォームを取れないケースがある、という視点です。
上体を前傾させたまま体幹を安定させ、肩甲骨をコントロールしながら引く動作は、運動初心者にとって難易度が高い種目でもあります。
そこで、ベントオーバーロウイングと同じ主働筋(広背筋・僧帽筋など)を刺激しつつ、より姿勢が安定しやすい以下の種目を、フォームが取りにくい方やトレーニング初心者へ最初に処方することが多くあります。
- シーテッドケーブルロウイング:座って行うため体幹が安定し、引く動作に集中しやすい
- ラットプルダウン:上から引く動作で広背筋を狙いやすく、可動域をコントロールしやすい
- ワンハンドロウイング(ワンハンドダンベルロウ):ベンチに手をついて支えるため上体が安定し、左右差にも対応しやすい
これらで「背中で引く感覚」と適切な肩甲骨の動きを身につけてから、フリーウェイトのベントオーバーロウイングへ移行していくと、フォームの習得がスムーズになり、ケガのリスクも抑えやすくなります。
まとめ
ベントオーバーロウイングの握り方については、研究上、逆手で広背筋、順手で僧帽筋中部の筋活動がやや高まる傾向が示されています。
また、上体の前傾を深めると広背筋・僧帽筋下部に入りやすい傾向もあります。ただし、いずれも被験者間の個人差が大きく、握り方や角度だけで効果が決まるわけではありません。
最終的に背中への効きを左右するのは、肘の引く方向、上体の角度、肩甲骨の動き、バーの軌道といったフォーム全体の質です。握り方はその中の一つの調整項目と捉え、まずは安全で再現性のあるフォームを身につけることを優先しましょう。フォームが安定しない場合は、シーテッドケーブルロウイングやラットプルダウンなどから始め、段階的にステップアップしていくのがおすすめです。
正しいフォームの習得や、自分に合った種目選びに不安がある場合は、専門のトレーナーのサポートを受けながら進めることで、より安全かつ効率的に背中を鍛えていくことができます。
Dr.トレーニングは、「医師がトレーニングに医学的根拠があると思うパーソナルジム」No.1に選ばれた、マンツーマン指導のパーソナルジムです。
毎週社内研修を重ねたトレーナーが、お客様一人ひとりの身体の状態やフィットネスレベルに合わせて、その場で最適なフォームと種目をカスタムメイドでご提案します。本記事で紹介したような「背中に効かせるための肘の引き方・肩甲骨の使い方」も、徒手でのサポートを交えながら、あなたの身体で体感していただけます。
まずは、体験トレーニングで、その違いをご自身で確かめてみてください。
【著者情報】
東田 雄輔
– 資格
・NSCA-CPT(全米エクササイズ&コンディショニング協会認定パーソナルトレーナー)
・JATI-ATI(日本トレーニング指導者協会認定トレーニング指導者)
・NASM-PES(全米スポーツ医学協会認定パフォーマンス向上スペシャリスト)
・NASM-GFS (全米スポーツ医学アカデミー認定ゴルフフィットネススペシャリスト)
・IASTM SMART TOOLs
・PRI Postural Respiration 修了
・PRI Pelvis Restoration 修了
・PHI pilates act
https://drtraining.jp/cast/higashida/
参考文献
[1] 樋江井雅人, et al. 「ベンチプルのグリップ向きが主働筋の筋活動に及ぼす影響」日本トレーニング指導学会大会プログラム・抄録集 第11回日本トレーニング指導学会大会. 日本トレーニング指導学会, 2022.
[2] Lusk, Stephen J., Bruce D. Hale, and Daniel M. Russell. “Grip width and forearm orientation effects on muscle activity during the lat pull-down.” The Journal of Strength & Conditioning Research 24.7 (2010): 1895-1900.
[3] Zyznawska, Joanna, Ewa Wodka-Natkaniec, and Bartosz Kamiński. “Optimization of hand position on the bar for strengthening biceps brachii and latissimus dorsi during strength training.” Acta of Bioengineering and Biomechanics 27.4 (2025): 49-56.
[4] Dickie, James A., et al. “Electromyographic analysis of muscle activation during pull-up variations.” Journal of Electromyography and Kinesiology 32 (2017): 30-36.
[5] 松村希良軌, et al. 「ベントオーバーロウにおける上体の前傾角度が主働筋の筋活動に及ぼす影響」日本トレーニング指導学会大会プログラム・抄録集 第12回日本トレーニング指導学会大会. 日本トレーニング指導学会, 2023.
