2023.11.16

【2023年】妊娠中にしていい運動・NGな運動!最新のガイドラインからご紹介。 

こんにちは!
Dr.トレーニングマタニティ事業責任者の青柳です。

今回はお客様やトレーナーさんから多く寄せられている
『妊娠中の運動について、何かガイドラインはないの?』
という質問に対して、アメリカ産婦人科学会(ACOG)が定めているガイドラインの解説と合わせ、トレーニング中の実例を交えてお話をします。

詳細をお話する前に、妊婦さんへトレーニングプログラムを提供するにあたり、弊社の立場を以下のように表明します。

1.弊社では下記の条件を全て満たしている限り、希望されるお客様へマタニティトレーニングプログラムを提供します。
・妊婦さんが産婦人科医から明確な理由で運動を禁止されていない
・妊婦さんご自身が運動をしたいという意思を示している
・運動開始時期が妊娠12週以降である

 2.マタニティトレーニングは、弊社で定めた基準を満たしたキャストが、お客様の状況(ニーズ、環境、心身の健康状態など)に応じ、個別化されたプログラムを提供しています。

 3.弊社が提供するプログラムは、社会情勢(医療現場の動向、最新の医学的・科学的根拠など)を加味し、キャストが社内教育(試験・研修)を定期的に受講することで、アップデートをされています。

 

妊娠中の運動について規定された「ACOGガイドライン」とは

 アメリカ産婦人科学会(ACOG)は、妊産婦に関わる事項に関して、医療従事者が参照するべきガイドラインを定めています。

 ACOGガイドラインは、
“Physical Activity and Exercise During Pregnancy and the Postpartum Period”(妊娠中から産後の身体活動と運動)として2015年に発表され、約2年ごとに更新(最新版は2023年度)を重ねています。

 日本でのガイドラインとして、“日本臨床スポーツ医学会妊婦スポーツの安全管理基準(2019)”が挙げられますが、参考文献としてACOGガイドライン2015年度版が採用されています。

両者の妊娠中の運動に対する考え方は、以下の通りです。

日本臨床スポーツ医学会 [1]:

“妊娠中のスポーツで特に注意しなければならないことは、子宮収縮の誘発と子宮胎盤血流量の減少である。これらは、(中略)回避することができるが、もともとこれらが発生しやすい妊婦は、スポーツを行うべきではない。したがって、現在の妊娠経過が正常であることが条件である。”

アメリカ産婦人科学会 [2]:

“妊娠経過に異常がないと認められた女性は、有酸素、およびストレングス&コンディショニング運動※1を実践するよう、妊娠前〜産後の時期を通じ、推奨されるべきである。”

“産婦人科医や妊婦に関わるケアに従事する者は、女性へ妊娠中の運動実施を推奨する前に、医学的・産科的な評価を実施するべきである。また運動制限は、早産リスクを低減させるための治療として、日常的(意訳:当たり前だと思って)に処方されるべきではない。”

両者のガイドラインを読んで、『女性が妊娠中に運動を実施する場合は、妊娠状態に異常がないと産婦人科医から認められれば問題ない』、と私は認識をしましたが、

前者:妊娠中の運動に対するリスクを最大限避ける
後者:妊娠中の運動に対するリスクを最小限に抑えつつ、それによって妊婦さんがメリット得られるようにする
という印象を受けました。

Dr.トレーニングでは、プログラムの安全性と効率性を確保し、妊婦さん、お子様とご家族が、運動を通して得られるメリットが最大化できるよう、両者のガイドラインを参考にし、サービスを提供しています。

※1 NSCA Japanの定義 [3]:

ストレングス:筋機能が関わるすべての体力要素に不可欠な能力
コンディショニング:快適な日常生活を送るために、筋力や柔軟性、全身持久力をはじめとする種々の体力要素を総合的に調整すること

 

妊娠中に推奨される運動について

ここから、最新のACOGガイドラインより、妊娠中の運動に関する基準である下記について解説、まとめ(お客様へガイドラインに基づいたアドバイス)をします。

1.時間
2.頻度・強度
3.種目
4.運動を中止するべき状態

1.運動強度:中程度

中程度の運動強度とは、『運動中に話しかけられても会話を継続できている状態』のことです。
逆に、100mを全力で走った後の息切れや会話が成り立たない状態であれば、実施している運動は、妊婦さんにとって強度が高すぎます。

 また、定数的な指標[4]として、

年齢に応じた最大心拍数の60-80%以下
運動心拍数が140拍/分を超えない程度

となります。

 

アドバイス
『妊娠中の運動は、運動中でも会話が継続できる程度の強度で実施する』
「運動中の心拍数の基準はあるが、筋トレ中にそれ以上になるまで追い込める妊婦さんはごく少数。自身で運動をする時は、スマートウォッチなど心拍数が計測・記録できればベスト」

 

2.頻度・強度

1週間あたり合計150分、1日20〜30分、ほぼ毎日
この基準は妊婦さんが運動によるメリットを得られる、平均的な指標となります。

 実際は諸条件により、お客様が基準を実践することは難しいことが多いため、下記の提案をすることが多いです。

 アドバイス
『運動は1週間の中で計画的に実践する。在宅・出社勤務、用事で出かける際の歩きも運動時間に含めて計算、1回30分〜90分の運動を週2-3回は、実践がしやすい』

 

3.種目

ウォーキング、エアロバイク、有酸素運動(ジョギングなど)、マタニティダンス・ビクス、マタニティトレーニング(器具を使用したもの)、ストレッチエクササイズ(ヨガ、ピラティス)マタニティスイム [2]

これらは、妊娠中の女性が安全に心身へのメリットが得られる運動とACOGガイドラインで定められています。[2]
 一方で、転倒や衝突のリスク、環境(気圧・温度・湿度)が母子の安全管理に適さないと判断される種目に関して、おすすめはできません。

 アドバイス
『Dr.トレーニングでは、筋トレ中心としたプログラムを提供していますが、個別の状況に合わせて、複数の種目を組み合わせることで、運動の安全・効率性を高めています』
『お客様の運動経験や好みに応じて、内容の細かな調整は、運動処方の専門家(トレーナー、理学療法士など)に意見を求めてください』

 

4.運動を中止するべき状態

膣からの出血、腹痛、規則的な腹部などの収縮感、破水、息切れ、めまい、頭痛、胸の痛み、体に力が入らない状態、ふくらはぎの痛み・腫れ [2]

運動前〜運動後に、このような状態になった場合、かかりつけの病院・産婦人科医へ連絡を取り、直ちに受診をしてください。

 

妊娠中の運動は「した方が良い」

 ACOGガイドラインでは、妊娠中の運動について、

妊娠中の身体活動とエクササイズは、妊婦の解剖学・生理学的な変化と胎児の状態を考慮することが必須だが、ほとんどの女性にとって最小限のリスクしかなく、有益なものである

とまとめています。

昔は、流産・早産のリスクを上げないために、『ベッドに安静に』と言われていましたが、現在は推奨されていません。[2][5]

理由としては、ベッドで安静にすることでのデメリット(体調不良、骨密度の低下、下肢血栓塞栓症など)、および流産と膣出血の予防策としての効果が疑問視されるからです。[6]

妊娠中でなくても、ずっと寝ていたり・座っていたりすることで、首肩や腰が痛くなった経験がある方は多いと思います。

明確な理由があった上で、『安静』という医師からの指示を無視してはいけませんが、母子共に健康な妊婦さんでも、運動不足によるデメリットは避けるべきであると思います。

 

妊娠中の運動は赤ちゃんに悪影響はないのか?

運動がお子様へ悪影響を与えるのではという心配は、安産を願う妊婦さんにとって無視はできないことです。

ACOGガイドラインの中で、

運動習慣の有無にかかわらず、妊娠中期の女性が30分の激しい運動(注釈:ACOGガイドラインで推奨されている運動強度を超えたもの)を実施しても、胎児の心拍数増加、臍帯への血流量、出生体重への悪影響は認められなかった。[2][7]

妊娠中の運動のメリット

経膣分娩の確率を上げ、帝王切開の確率を下げる [2]
胎児の過剰・過小な体重での出生、妊娠糖尿病・高血圧症候群、早産の確率を下げる [2]

という言及があります。

科学的根拠とお客様の意見を合わせて考慮すると、妊娠中に運動をすることでのメリットは、しないことでのデメリットを大幅に上回ると、Dr.トレーニングでは考えております。

 

妊娠してからはいつ運動を開始・終了すると良いのか?

運動をいつ開始・終了するか、というご質問も多くいただきます。
妊娠期の運動開始時期に関して、自然流産は全妊娠の10-15%に発生し、多くは妊娠12週未満で起こる[8]ということを踏まえ、お客様・お子様の健康と安全を守るため、
妊娠12週からのトレーニング指導開始
と弊社では定めています。

また終了時期はACOGガイドラインで、出産予定日まで(可能な限り)とされています。

弊社調べですが、
妊娠38週がマタニティトレーニングの平均終了時期。

出産予定日1日前の朝にトレーニングを受け、当日午後に本陣痛。翌日午前中に無事出産という実例もあります。

 

妊娠中にパーソナルトレーニングを推奨する理由

妊娠中にパーソナルトレーニングがおすすめの理由は、“お客様の声”で最もわかりやすく説明ができます。

『妊娠中の体重管理、心身の不調、安産のため、産後までの体型管理のためにできることが、情報が多すぎて・少なすぎる』
『運動を継続したいけど、妊娠中でも安全・効率的な運動ができるか不安』

これらの状態をお客様がどう解決すれば良いか、自分自身では適切な判断ができないからです。

また、ACOGが『妊婦の解剖学・生理学的な変化と胎児の状態を考慮することが必須』としたこと、さらにガイドラインに“Motivational Counseling”(動機づけのカウンセリング)についての記述があったことから、

確定申告をするときに税理士へ相談するのと同じで、妊娠中のことも医師や運動処方の専門家に相談した方が良い。

何か目標を達成したいときは、モチベーション(やる気)ではなく、適切な環境設定(専門家とのカウンセリングから、具体的な行動までの指導と実践をするため、お金や時間投資すること)をした方が、達成される可能性が高くなる。
とトレーナー目線では考えています。

 

Dr.トレーニングでの妊娠中の運動プログラムの組み方

Dr.トレーニングでは、カウンセリング・体験トレーニングで得た情報をもとに、お客様のために個別化されたマタニティトレーニングを提供しています。

 今回は、プログラム中の負荷設定とエクササイズ種目についてお伝えします。

 『妊娠中は、重りを持った運動をすると腹圧が上がって、赤ちゃんに良くなさそう…』
という不安も聞かれますが、これは妊娠中の労働における重量物の扱いに関するガイドライン(アメリカの国立労働安全衛生研究所 [9]、日本の労働基準法[10])を参考にして目標設定をしております。

 『お客様の約90%が4〜20kgの重量を安全に扱える状態』

 また、筋トレに馴染みのある方は、ベンチプレス、スクワット、デッドリフトなど聞いたことがあるかと思いますが、これらは全てプログラムに含むことが可能です。

 『皆さんが知っている筋トレエクササイズの95%は、妊娠中でも安全に実施ができる』

 これは個別の状況に応じて変化しますが、弊社で定めた基準を満たしたキャスト※が担当をした場合に当てはまることです。

弊社でマタニティトレーニングを担当可能なのは、約800時間以上の臨床経験、月次試験と査定で一定以上の評価を得た上で、座学・実技試験に合格したキャストのみ(社員全体の約15%、2023.11現在)としています。

 

まとめ 

 今回は妊娠中の運動に対しての考え方を、ACOGガイドラインなどの医学的根拠も踏まえてお伝えしました。

 『お客様が心身ともに健康な状態で出産を終え、産後も女性としての自信を持ち、お子様とご家族も幸せに』

 Dr.トレーニングではこのようなミッションのもと、ウィメンズヘルス分野において、皆様のお役に立てるよう、サービスの質向上に努めて参ります。

ドクタートレーニングの各店舗のお問い合わせはこちらから
https://drtraining.jp/contact/

 

【筆者プロフィール】

Dr.トレーニング|マタニティ事業部責任者
青柳 陽祐

【学歴】
ラッセル大学 アスレティックトレーニング&スポーツサイエンス学部 ATC学科

【職歴】
慶應義塾大学医歯薬学部ラグビー部
東京健康科学専門学校 非常勤講師
コモゴルファーズアカデミー

【資格】
NATA-ATC(全米アスレティックトレーナーズ協会認定トレーナー)

 

引用文献:

 [1] 日本臨床スポーツ医学会妊婦スポーツの安全管理基準(2019)

https://www.rinspo.jp/files/proposal_28-1-01.pdf

 [2] Physical Activity and Exercise During Pregnancy and the Postpartum Period: ACOG Committee Opinion, Number 804. Obstet Gynecol. 2020 Apr;135(4):e178-e188. doi: 10.1097/AOG.0000000000003772. PMID: 32217980.

 [3] ストレングス&コンディショニングとは

NSCA Japan https://www.nsca-japan.or.jp/01_intro/sandc.html

 [4] Berghella V, Saccone G. Exercise in pregnancy! Am J Obstet Gynecol. 2017 Apr;216(4):335-337. doi: 10.1016/j.ajog.2017.01.023. Epub 2017 Feb 22. PMID: 28236414.

 [5] Crowther CA, Han S. Hospitalisation and bed rest for multiple pregnancy. Cochrane Database Syst Rev. 2010 Jul 7;2010(7):CD000110. doi: 10.1002/14651858.CD000110.pub2. PMID: 20614420; PMCID: PMC7051031.

 [6] Aleman A, Althabe F, Belizán J, Bergel E. Bed rest during pregnancy for preventing miscarriage. Cochrane Database Syst Rev. 2005 Apr 18;2005(2):CD003576. doi: 10.1002/14651858.CD003576.pub2. PMID: 15846669; PMCID: PMC8721648.

 [7] Kramer, M. S., & McDonald, S. W. (2006). Aerobic exercise for women during pregnancy. Cochrane database of systematic reviews, (3).

 [8] Hjollund NH, Jensen TK, Bonde JP, Henriksen TB, Andersson AM, Kolstad HA, Ernst E, Giwercman A, Skakkebaek NE, Olsen J. Spontaneous abortion and physical strain around implantation: a follow-up study of first-pregnancy planners. Epidemiology. 2000 Jan;11(1):18-23. doi: 10.1097/00001648-200001000-00006. PMID: 10615838.

 [9] MacDonald LA, Waters TR, Napolitano PG, Goddard DE, Ryan MA, Nielsen P, Hudock SD. Clinical guidelines for occupational lifting in pregnancy: evidence summary and provisional recommendations. Am J Obstet Gynecol. 2013 Aug;209(2):80-8. doi: 10.1016/j.ajog.2013.02.047. Epub 2013 Mar 1. PMID: 23467051; PMCID: PMC4552317.

 [10] 厚生労働省 労働基準法 (危険有害業務の就業制限)

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001263j-att/2r985200000126hg.pdf

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